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2025.12.14 経営者インタビュー

「在宅医療との出会いと挑戦」―患者に寄り添う理想の医療サービスを目指して (株)on call 取締役 最高執行責任者 中溝 祐介

在宅医療との出会い、家族とともに歩んだ2年間

中溝:

はい、私の妻が在宅医療を受けてました。在宅医療の体験者となる2年前、妻が大腸がんステージⅣと診断され、抗がん剤を中心とした積極的治療を受けていました。

その時期はちょうど、私が弊社のサービス『ON CALL』を立ち上げた直後で、当時の私は在宅医療についてほとんど詳しくありませんでした。どちらかといえば、「高齢者が受ける医療」というイメージを持っていました。しかし、妻の病状が進行するにつれて、いずれ在宅医療を選択せざるを得ない日が来るのではないかと考え始めるようになりました。正直なところ、当時は「在宅医療を選ばずに済む未来」を願っていたのも事実です。

主治医から「在宅移行」という言葉を聞いたときには、まるで「もうそんなに長くない」という現実を突きつけられたような気持ちになりました。妻もきっと同じように受け止めていたと思います。

それでも、結果として在宅医療を選択したことは、入院治療では得られない「家族とともに穏やかな時間を過ごす」というかけがえのない価値をもたらしてくれました。この選択が、妻にとっても、子どもを含めた家族にとっても良いものだったと、今でも強く感じています。

在宅医療を体験して気付いた『患者に寄り添う医療』の本質

中溝:

病院の医療と在宅医療は「アプローチの仕方」に違いがあると感じます。

病院では、患者は診察室に並んで、検査をし、順番がきたら症状を聞いて、治療を受けるのが基本だと思います。一方で在宅医療では、医師が患者の家に来てくれて、まず最初に「今、何が一番つらいですか?」と声をかけてくれます。この一言が、両者の医療の本質的な違いを物語っていると感じます。在宅医療では、治療そのものだけでなく「患者や家族の状況に寄り添う姿勢」が何よりも重視されているのです。

例えば、妻がつらそうにしているとき、医師が「今日は無理して話さなくていいですよ」と提案してくれたことがありました。そして、妻が少し話せる時間帯に訪問看護の方が来られるよう、医療機関が丁寧に連携を取ってくれていました。その柔軟な対応と気遣いは、患者である妻だけでなく、支える家族である私にとっても大きな安心感を与えてくれました。

妻が在宅医療に移行したのは、約2年ほど抗がん剤治療を経て、病状が進行し、歩行が難しくなった時期でした。その後の在宅医療を通じて、家族として支え合う時間の大切や、医療者が見せる寄り添う姿勢の重要性を深く実感しました。

今でも忘れられない一言があるのですが、ある夜、妻がとても苦しがっているのを見て、深夜に往診を依頼しました。医師が到着するまでの時間、私はただそばにいて見守ることしかできませんでした。医師とアシスタントが到着し、薬を投与してくれたことで妻はようやく落ち着きました。そのとき、アシスタントの方が「ご主人、よくここまで頑張りましたね」と声をかけてくれました。

その一言が本当に心に刺さりました。それまで張り詰めていた緊張がほどけ、涙が出そうになるほど救われたのを覚えています。医師や看護師の方が医療行為を提供するだけでなく、患者や家族の感情にも寄り添ってくれる。これが、在宅医療の本質だと実感しました。

特に終末期医療では、「治すこと」ではなく、「穏やかな最期を迎えること」が目的になります。そのためには、患者本人だけでなく、家族の心にも寄り添うケアが必要で、在宅医療の現場では、それが医療者の自然なアプローチとして行われているのを感じました。

在宅医療は、患者が自宅という「最も安心できる場所」で、心穏やかに過ごせるよう支える医療です。それは「患者や家族に寄り添うこと」を大事にしている点で、病院の医療とはまた違う価値があると感じます。この経験を通じて、在宅医療の持つ温かさと意義を深く理解することができました。

体験から取り入れた『ON CALL』が目指す在宅医療サービスとは

中溝:

患者としての体験者であり、医療提供者でもある私が考えるのは、患者が求めるものと医療者が提供するもの、その両者のバランスを取りながら全体の最適化を図ることです。

患者を中心にした医療を追求することは、一見理想的に見えますが、それが必ずしも正しい方向とは限りません。

しかしながら、根底にある考えとしては、私たち家族が体験したように「心穏やかに過ごせる」環境を提供することが重要だと思っています。それを実現するために、昼夜を問わず、また医療機関が休日のときでも安心して頼れる医療サービスを提供できる仕組みを目指しています。

在宅医療の価値観を社内に浸透させる新たな取り組み

中溝:

サービスマネジメント部門は、2024年11月から新たな取り組みを開始しました。この部門は、従来のクリニックサポート(CS)部門を機能強化し、より包括的な役割を担う新しい部署として設立されたものです。

以前のCS部門は、主にオペレーションの対応不備やクレーム発生時の対応改善に注力していましたが、それでは対処療法に過ぎず、サービス全体の品質向上にはつながらないという課題がありました。

新設されたサービスマネジメント部門の役割は、弊社の提供する『ON CALL』というサービスの価値観を社内全体に浸透させることです。この価値観の核となるのが「患者中心の医療」です。

「患者中心の医療」とは、患者一人ひとりの状況やニーズを理解し、それに応じた適切な対応を行う姿勢を意味します。この考え方こそが、『ON CALL』のサービスの質を高める鍵であり、在宅医療において不可欠な要素です。スタッフ全員がこの価値観を深く理解し、高い意識を持つことで、クレームの未然防止だけでなく、患者とその家族が安心して医療を受けられる環境の実現を目指しています。

また、在宅医療は患者一人ひとりの心に深く寄り添う医療であるため、その対応が患者ごとに異なるのが特徴です。この多様性が在宅医療の本質でありながら、同時に対応の不一致や問題が生じる原因にもなり得ます。そのため、サービスマネジメント部門ではまず、「絶対にやってはいけないこと」を明確に定めています。

これまでの経験や事例から得られた暗黙知を形式知として全スタッフに共有し、守るべき基準として運用しています。この基準を全員が理解し、遵守することで、在宅医療における問題を未然に防ぎ、患者や家族が安心できる医療環境を提供することを目指しています。

サービスマネジメント部門は、単なる問題対応にとどまらず、サービス全体の質を向上させる仕組みを作り上げています。これにより、『ON CALL』が提供する在宅医療がさらに信頼され、患者やその家族にとって最良の選択肢となることを目指しています。

心を伝える在宅医療の運営ースタッフ教育と課題解決の実践

中溝:

在宅医療における「心」を常に伝えることを最優先としています。

この「心」とは、患者さんやご家族、医療者、そして『ON CALL』に関わるすべての人たちと真摯に向き合う姿勢のことです。この価値観をスタッフ全員に共有し、日々の業務に活かすことで、「患者中心の医療」を実現することを目指しています。

具体的には、過去のクレーム事例や対応方法を共有する仕組みを新たに導入しました。社内システム上に専用のスタッフページを設け、改善ポイントを学ぶ機会を提供しています。

たとえば、「救急車を呼ぶべきかどうか」という在宅医療特有の課題を取り上げ、全スタッフに周知しています。在宅医療では、患者さんが最期を穏やかに迎えられるよう、事前に「救急車を呼ばない」という取り決めを行うことが一般的です。

しかし、この方針を十分に理解していないと、患者さんや家族の意向を損ねる対応をしてしまう恐れがあります。そのような対応を防ぐため、在宅医療の基本的な価値観や事例を通じて具体的な課題を深く理解する環境を整えています。

さらに、採用面接や入社前研修の内容も改定し、「患者中心の医療」を実現するために欠かせない「心」の重要性や、「患者の方針に寄り添う姿勢」を強調しています。

今後開始する入社後の定期研修では、スーパーバイザー(SV)やディレクターのリーダー層に向けて、実際に『ON CALL』で起きた具体的な課題や注意点を共有し、「もっと良い対応ができたのではないか」という視点を全員で考える場を設けます。

これらの取り組みを通じて、スタッフ全員が「患者中心の医療」の価値を深く理解し、実践することで、質の高い在宅医療サービスを提供できる組織づくりを目指しています。

ON CALLを通じて伝えたい「心に寄り添う医療を」

中溝:

会話の内容がより具体的になったと感じています。

たとえば、患者さんからの電話を受けて往診に向かうまでの目標時間を設定して運用していますが、当初、その基準がスタッフに十分浸透していないことに気づきました。私は「ずっと伝えているつもり」でしたが、実際には目標が共有されておらず、現場では意識されていなかったんです。これを受けて、改めて自分の言葉で基準を丁寧に伝えることを心がけました。

その結果、現場で時間を意識した会話が増えたのを実感しています。たとえば、「今回の往診は目標時間内に対応できてよかった」といった振り返りや、「次回はどうすれば遅延を防げるか」といった具体的な提案が、マネージャー陣から積極的に上がるようになりました。このように、目標が現場で意識され始めたことで、スタッフ全体の行動が変化しつつあります。

特に大きかったのは、「私たちを待っているのは患者さんである」という視点が現場全体に共有されるきっかけになったことです。この意識が当たり前のものとして根付くことで、今後の取り組みの基盤となり、サービス全体の質をさらに向上させる原動力になると感じています。

ひとつ言えるのは、この患者さんがどのような目的で在宅医療を受け、夜間に往診を依頼する時の状況や気持ちを想像し、理解できるようになるためには、日中の訪問診療の経験が重要だと考えています。

夜間対応の質は、日中の経験によって大きく差が生まれると思います。大きな病院での医師教育は、このような経験にはフォーカスしていません。病気を標準治療で治すか、標準的でない場合は論文を調べて対応する、といったエビデンスに主にフォーカスしているためです。

例えば、患者さんが「骨が折れたかもしれないが、できるだけ家で対応してもらいたい」と望んでいる場合、医療的には「骨折が疑われるので診断のために病院に行ってください」と答えるのが正しいです。

しかし、患者さんが求めているのは、「今の生活を維持する方法」、「できるだけ家で過ごすという手段」、「病院に行かずに自宅療養できるかの相談や、症状を軽減するためのアドバイス」です。

そのような希望に応えるためには患者さんの側に立つための事前の準備や対話の経験が必要だと感じています。

すべての人に正しい医療選択を届けるために

中溝:

在宅医療を経験して強く感じたのは、「在宅医療は甘くない」という現実です。私は医療の知識や経験を持たず、何ができるのか、もっとできることはないのかと、妻の介護を通して学び続ける日々でした。一人の命が終わりに近づく中で、支える家族として強くいることの難しさを痛感しました。

それでも、在宅医療を受けたいと思う人が正しい形で在宅医療を受けられる環境を整えることは重要だと思っています。そして、その環境が24時間365日安心して相談できるものであるべきだと考えています。究極的には、在宅医療に限定する必要はないと思っています。病院、ホスピス、高齢者施設など、信頼できる選択肢がすべての人に平等に用意されている社会が理想です。

ただし、私自身が在宅医療を経験し、その良さを深く実感したことから、在宅医療に対して恩返しをしたいという思いがあります。私が得たような「在宅医療を選んで良かった」という体験を、同じ選択をする方々にも提供したいと思っています。

「在宅医療がすべての人にとって最適な選択肢だ」と考えているわけではありません。その選択肢が正しく理解され、適切に選ばれる世の中を作ることが、私たちの使命だと考えています。

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